ジーンズの股部分破れ補修(目立たない方法での)について
はじめに
ジーンズの股部分の破れは、ご依頼されるリペアの中でも最も多いもののひとつといえます。その理由として、それが部位的に特に擦れやすいということに加え、思っている以上に日常的に自転車に乗られる方が多く、自転車をこぐ際に股部分がサドルに擦れ合って穴が開くといったこと等が考えられます。
そのような股部分の補修については、当店では主に、元の状態にできるだけ近づけるようダメージをなるべく目立たなくするやり方と、見た目のダメージはそのままに、しかししっかりと補強は施すといった方法の二通りを採用しております。考え方として前者は、股という部位だけにダメージが残るのは避けたいと考えられる方に対応するものであり、後者は、見た目のきれいさよりも費用をできるだけ抑えたいという方にお勧めしているものです。それぞれの直し方の最も大きな違いは、リペアを施す際に縫い目をほどくかどうかにあるのですが、本ブログでは、より希望されることの多い前者の方法についてご説明したいと思います。
破れを目立たなくリペアする方法の手順
1.股部分の縫い目をほどく
上の写真のサンプルはダメージがそこそこ大きい状態にあり、ヒップ側の左右の穴、インサイドシームの擦れによる破れ、更にはそれらの周辺も広範囲に生地が薄くなっています。これを目立たないように直すためにはインサイドシーム、ヒップシーム、フロントシームそれぞれを一旦ほどき、各パーツを一枚の布の状態に戻すことが必要となります。それというのも破れをきれいに消すためには、特に穴の部分にかなりのミシンを入れることになるのですが、それをシームをほどかない状態で施してしまうと、シームが潰れて「せんべい」のように固くなり、見た目だけでなく履き心地も非常に悪くなります。更にいうと、シーム部にミシンが多く入ることで、以後ほどいてリペアすることが基本的にできなくなるので、次回以降の補修はミシンを「上塗り」するように入れるしかなく、従ってますます固くなり履き心地が悪くなるという悪循環に陥ります。
2.下準備
ミシンを入れる前の下準備として、穴の開いている部分と極端に薄くなっている場所に、補強として「白も」(しつけ糸)を緯糸を足すように置いていきます。そうすることで失われた部分の土台とするのですが、デニム生地はミシンを入れると横に伸びる傾向があり、それを防止するという意味合いも含んでいます。
3.芯地貼り、そして一度目のミシン入れ
「白も」を置いた後、接着芯(本来は襟やカフス等の部位の伸び止めとして使用するもので、ガーゼのような薄い生地に糊がついておりアイロンで接着できる)を貼って固定します。穴の周辺だけでなく、補強したい部分全てをカバーします。接着芯は薄手から厚手まで様々な種類があるのですが、今回は穴を埋めるためにかなり密にミシンをいれることから、出来るだけ仕上がりが硬くならないように、最も薄いものをチョイスしました。
そうしてようやくミシン入れの作業に取り掛かることができます。まずは生地が薄くなっている部分全てに一通りミシンを入れていきます。ここで注意すべきは、生地の弱っているところで縫い止めしてしまうと、そこにテンションがかかってしまい、その際からまた破れてしまうので、ある程度しっかりしているところからしっかりしているところまで広範囲にカバーしなければならないということです。一度目のミシン入れが終わると下の写真のようになります。
4.穴埋め作業と二度目、三度目のミシン入れ
生地の薄くなっている部分全体に、一度ある程度密にミシンを入れることで補強は十分できているのですが、穴を目立たなくするためには、その部分に更にミシンを入れていかなくてはなりません。ここでの大事な点は、その二度目のミシン入れの前に、染色クレヨン(アイロンをかけることで色が定着する)を破れた部分に塗って馴染ませておくということです。そうすることでミシン入れの回数を減らしつつ、効率よく穴を埋めることができます。
二度目、三度目のミシン入れに使う糸は、余程糸色がデニムの色と合っていない限り、一度目のミシン入れのそれと同じものをチョイスすることはまれで、微妙に色合いの異なる糸を混ぜながら周囲のデニムの色に馴染ませていくことが多いです。ミシンの上糸・下糸の双方を状況に合わせて替えていくことで、より目立たない状態へ近づけていくことができます。
下の写真はミシン入れが終わった状態です。今回は破れた部分が大きかったこともあり、それを全く目立たない状態にすることは難しかったのですが、それでも一見しただけではほとんどダメージがあったことがわからない程度までは消せたかと思います。
後はそれぞれのパーツを縫い合わせて元通りに戻していきます。閂(かんぬき)止めまで手を抜かず、きっちり再現して完成です。
最後に
今回はダメージが股下だけでなくヒップ周辺にまで広範囲に及んでいたこと、そこそこ大きい穴が開いていたこと等の理由から、補修するのに多くの時間を要しました。そのために費用がかさみ(基本的に¥6,600でお受けすることが多いのですが、今回のリペアは¥8,800とさせて頂きました)、さらには穴の部分はミシンで埋めることから、どうしても生地の残っている部分との落差が上の写真の程度生じてしまいます。
もし、ダメージのないきれいな状態を保ちたいとお考えでしたら、出来るだけ早い段階(穴が開く手前、もしくは開いても小さな状態の間)でリペアされることをお勧めします。