貼り付け加工(ダメージ裾の移動)の方法
貼り付け加工と、その問題点
ダメージ加工のジーンズ等の裾を上げる時、単純にシングルステッチで仕上げると裾だけがきれいな状態になってしまい、全体としてバランスを欠いてしまいます。そうした事態を避けるために、ダメージのある裾をそのまま利用し、縫い合わせるべく考案された技法が貼り付け加工です。通常、シングル・チェーンステッチに比べて費用は倍以上するのですが、それでもこだわりを持つお客様を中心に、人気のある裾上げの方法として今ではすっかり定着しています。したがって当然、多くのリペア・リフォームショップで貼り付け加工が取り入れられているのですが、そうした状況にもかかわらず一方で、いまだにその仕上げのあり方は各ショップにより大きく異なり、統一がなされていない現状であることもまた事実です。そのために、依頼されたお客様のイメージからかけ離れたものとして、つまり、あるショップと同様の仕上がりを期待されていたところ、他のショップでは違った仕様で仕上がるというような混乱が生じています。
「統一がなされていない現状」と書きましたが、デニムリペアに対する姿勢や考え方が個々のショップによって異なっているため、今後も統一される可能性はほとんどなく、こうした問題の解消は難しいと思われます。そうした事情を踏まえ、まずは当店が採用している方法を紹介し、他店の貼り付け加工の仕上がりとの比較、検討が可能となることで、お客様のショップ選びの参考にしていただければと考えました。本ブログでは以下、その手順を詳しく見ていきたいと思います。
貼り付け加工の手順
1.ダメージ裾のカット
上の写真はダメージ加工ジーンズの裾です。まずはそれを仕上がり位置でカットし、次いで縫い代を残した裾の部分をカットします。そして裾部分のステッチを解くと・・・。
上の写真のように、裾上げしたい分量を切り取るように間を抜くことになります。(仕上がり位置でカットすることは、一見短くしすぎたように感じられますが、そこに裾の部分をパイピングをするように巻き付けると考えていただければ、その意味を理解していただけるかと思います。)そして本体と裾を縫い合わせると下の写真のようになります。
2.裾の縫い合わせ
縫い合わせる時に使用する糸は、強度があり、かつあまり目立たないものをチョイスします(当店では50番手のテトロン糸で、色はインディゴデニムの場合は縫い目の色に合わせて少し濃い目の紺を使っています)。ここでの注意点は、本体と裾側のインシームとアウトシームの継ぎ目がピッタリと合うように縫い合わせなければならないということです。少しでもそれがずれていると、貼り付けた感じが出て完成度が落ちてしまいます。また、継いでいるということで縫い代が重なっているので、仕上がった時のごわつきを少しでも軽減するために、無駄な縫い代を強度を損なわないギリギリまでカットしておきます。(ストレッチ素材の場合は、縫い合わせる前に裾側のパーツをぐるりでおおよそ2~5㎝程度カットし、あらかじめ本体よりも全体の距離を短くしておきます。そのひと手間を怠ると裾が横に広がりラッパの口のような形状に仕上がってしまいます。)
次に本番のステッチ(今回はオレンジの糸)を入れていくのですが、その前に縫い入れしやすくするために、継目をプレスした後に、さらに平らにすべく金槌で軽くたたいてならしておきます。
3.ステッチ入れ
いよいよ本番のスッテチ入れです。継ぎ目を少しでも分からないようにするために20番手の太いミシン糸を使用し、表から落としミシンでステッチを入れていくのですが、この作業の難しいところは、裏のステッチ跡(解いた後のミシン穴)にできるだけ戻すようにして縫わなければならないということです。ここが一番の腕の見せ所です。
4.仕上げ
ステッチを入れ終わりましたら、再度プレスをかけながら金槌で軽くたたき、縫い目に沈んでいるステッチを浮き立たせます。
5.完成
上の写真が完成したものです。縫い目に直接落としミシンとしてステッチを入れるため、継いだ後がほとんど分からなくなっていることが見て取れると思います。この方法だと、同色系のステッチ(インディゴデニムだと紺系の糸)でも同様に自然な仕上がりが可能となります。(以前は継ぎ目のキワにイエローやオレンジのステッチを打つことで、目の錯覚を利用分からなくする方法を採っていたのですが、それだと特に同系色のステッチを入れたとき、目が騙されず、継ぎ目がはっきりと見えてしまっていました。)この方法のデメリットは、裾側にステッチが入っていないため、洗濯などを繰り返すうちに裾が浮いてきて、ステッチが少し沈んで見えるということです。もしそれが気になるようでしたら、アイロンをかければ元の状態に戻ります。また当店では、ステッチはシングルのみでチェーンステッチでの仕上げは出来ません。
最後に
以上見てきたように、貼り付け加工はほとんど違和感なくダメージ裾の移動が可能ですので、特にハードなダメージ加工の施されているジーンズの裾上げには大変有効な手法と言えます。というのは、そのような加工のなされたジーンズはインディゴの色がかなり薄くなっているものが多く、仮にシングルあるいはチェーンステッチで裾にパッカリング(波打っているような捻じれによる凹凸)を出しても、後に濃淡のある「アタリ」が期待できないからです。
ただそれは逆に言うと、色がそれなりに残っているジーンズでしたら、チェーンステッチ(特にヴィンテージミシンであるユニオンスペシャルで仕上げたもの・・・お勧めしておいて申し訳ないのですが、当店のユニオンスペシャルは故障しており現在受付しておりません。)か、ストレッチ素材でなければやりようによってはシングルステッチでもそこそこのパッカリングを出すことができますので「アタリ」はでます。裾は比較的に色落ちがしやすい部位ですので、何でもかんでも貼り付け加工で仕上げるのではなく、ジーンズの状態によってそれらの使い分けをするのがベストだと思います。
以上、当店の採用している貼り付け加工の方法を紹介し、仕上がり具合を見てきました。ショップ選びの参考に少しでも役に立てれば幸いです。